変形性膝関節症ってどんな病気?

しょう吉

膝の痛みの原因で、最も多いのが変形性膝関節症です。今回はその変形性膝関節症の原因と、軽症・重症それぞれの治療法、その治療にかかる大まかな治療費について簡単にご説明したいと思います。

目次

変形性膝関節症

どんな症状なの?

変形性膝関節症とは、膝関節の軟骨がすり減り、軟骨のすぐ下の骨がむき出しになってぶつかることで痛みが出たり、
膝の形が変形してしまう
病気です。発症しやすい方として、ご家族に変形性膝関節症の患者さんがいる方や、高齢、肥満、女性の方が多く、統計的にも男性より女性の方が約2倍近く発症しています。女性の発症者の主な原因は、筋力不足、内股、女性ホルモンの関与が指摘されています。男性より女性の方が筋力が弱く、内股の姿勢をとる傾向が多いため、膝の内側に負荷がかかり、変形が起こりやすいといわれています。日本人は特に膝の内側の変形が多く、痛みが出るのも内側に多いといわれています。)

また、女性ホルモンであるエストロゲンが閉経後に減少してしまい、軟骨や骨が弱くなることも原因と考えられています。逆に言えば女性ホルモンを投与すると骨は強くなります。骨粗鬆症(こつそしょうしょう)の治療薬の一種に女性ホルモン類似物質というものもあるくらいで、女性ホルモンは骨の強さに密接に関与しているのです。このお話を聞いて心配な方は、まずは最寄りの整形外科を受診してみてください。そのうえで、医師の診察とレントゲン検査を受けてください。レントゲンでの重要なポイントは、
大腿骨(だいたいこつ)という太ももの骨と、脛骨(けいこつ)というふくらはぎの骨の間の”軟骨がすり減っていないかどうか””骨が変形していないかどうか”です。

治療方法

現在の医学では、まだ変形した軟骨や骨を元に戻すことはできません。したがって、治療の目的はいかに痛みを抑えていくかになります。まずは軽症の場合からです。軽症の患者様は保存療法という手術をしない選択肢を選びます。その保存療法は次の3つのステップを順番に行っていきます。

  1. 減量を含む運動療法・食事療法
  2. 鎮痛剤の内服・外用、リハビリ
  3. 鎮痛剤の注射、リハビリ

それぞれ細かく見ていきましょう。

ステップ1・減量を含む運動療法・食事療法

ここでの目的は膝の負担を減らすことです。具体的に言えば、体重を減らしたり、太ももの筋力をつけることで膝にかかる負担を減らすことができます。まず、肥満の方は減量しましょう。それだけで膝にかかる負担が減り、痛みが取れることもあります。そして減量の過程で運動を取り入れることで、大腿四頭筋という太ももの筋肉が鍛えられ、その筋肉の作用でさらに膝の負担を減らすことができます。食事は糖質だけを制限するなどの極端なダイエットは控え、バランスよく食事をしながら摂取カロリーを全体的に抑えていく方法が理想です。おやつなどの間食を挟んでいる方は、そのおやつの我慢から始めてみてください。この第1ステップまでは自宅でおこなうことができます。医者にかからず行うことができる治療ですので、気になる方は是非取り組んでみてください。

ステップ2・鎮痛剤の内服・外用、リハビリ

ここからはクリニックの出番です。痛みが続く場合、まずは鎮痛剤を処方してもらいます。鎮痛剤は“炎症をとることで、痛みを鎮める”ことができます。変形性膝関節症も膝の軟骨やその周囲に生じる炎症が原因で痛みが発生するため、その炎症をとるお薬を中心に、内服薬や外用薬で治療を開始します。また、リハビリでの温熱療法やマッサージなども効果的です。最寄りのクリニックでリハビリ施設を持っているところがあれば是非相談してみてください。

ステップ3・鎮痛剤の注射、リハビリ

鎮痛剤の内服や外用で痛みが改善しない場合、関節内に直接注射をすると痛みがとれやすいです。関節の潤滑剤となるヒアルロン酸、痛みを抑える局所麻酔薬、炎症を強くとるステロイド剤などを注射します。有効成分は約2~4週間ほどで体に吸収されるといわれていますので、この注射は短い人で 1,2週間に1回、通常は1,2カ月に1回くらいの頻度で注射をします。症状や薬剤によって違いはあるものの、「1年ほど効果は続く」という報告もあります。また、最近はこの注射の1つとしてPRP (ぴーあーるぴー)療法という治療も注目されています。大谷翔平選手、田中将大選手をはじめプロ野球選手などが肘や肩に注射している、というのを耳にしたことがあるかもしれません。いわゆる再生医療の1つで、ご自分の血液から血小板という成分を培養し、凝縮したうえで痛い場所に注射するという治療です。血小板の中に入っている成長因子が損傷した組織の修復を促し、「早期治癒」「疼痛軽減」につながるとされております。この PRP 療法についてはまた別の動画でご紹介しますが大事なのは、変形の初期段階に治療しなければならないことです。軟骨や骨の変形が進行してしまうと、いくら自分の成長因子を投与しても、組織を修復する力が負けてしまい効果を発揮できないのです。従って、PRP 療法を検討したい方は早めに受診するように心掛けてください。

手術について

ここまでの治療で十分効果が得られない方、もしくはレントゲンで骨の変形が進行している方は重症に当てはまる可能性が高いです。その場合、手術も検討した方がよいでしょうその場合、手術も検討した方がよいでしょう。その手術は大まかに分けると次の方法があります。

  • 関節鏡術(かんせつきょうじゅつ)
  • 高位脛骨骨切り術(こういけいこつこつきりじゅつ)
  • 人工関節置換術

それぞれ詳しく見ていきましょう。

関節鏡術

この手術では、まず膝の関節に約6mm程度の小さな穴を 2~3か所作り、「関節鏡」というカメラやその他の器具を挿入します。そしてカメラで変形した軟骨や半月板などの組織を確認し、痛みの原因となっている部位を取り除き、処理する手術です。個人差はありますが入院期間はおおよそ10日ほどになります。この手術のメリットは体への負担が少なく傷跡も最小限にとどめられることです。ただし、こちらは”手術が必要な患者さんの中で比較的軽い症状の方”にしか効果はありません。

高位脛骨骨切り術

変形性膝関節症で痛みが出るのは、変形した骨に体重がかかった時です。高位脛骨骨切り術の目的は”膝の骨の中で体重がかかる場所を、健康な軟骨のある場所に移動する”ということになります。骨に切り込みを入れて、そこにクサビとなる人工の骨を挟み、金属で補強します。そうすることで骨の角度を矯正し、体重がかかる部位を健康な軟骨がある場所に移動させることができ、痛みのない膝にすることができます。こちらは約1年後に金属を取り除く手術をすることが多く、2度の入院・手術が必要となります。1度目の入院は約3~4週間です。

人工関節置換術

中等度以上に関節が変形している場合は人工関節の手術をおこないます。膝の内側など、変形した場所のみを人工関節に置き換える単顆(たんか)置換術と、関節すべてを人工関節に置き換える全置換術があります。人工関節置換術のメリットは効果が 20~30年持続し、日常生活を痛みなく過ごせることはもちろん、スポーツもできるようになることです。こちらの入院期間も3~4週間程度です。片方の膝の人工関節の手術後に、もう片方も手術したい場合は約半年ほど間をあけて手術することが多いですが、人工関節の手術に慣れている病院では両膝同時に手術してくれることもあります。デメリットは、効果が 20~30年ほどであるため、30年後には人工関節の入れ替え手術を必要とする可能性があることです。その再手術のリスクを避けるため一般的には60歳以上の方を対象としており、60歳未満の若い患者様は関節鏡や高位脛骨骨切り術などの手術を選択するケースが多い状況です。

手術を検討または決まっている方への注意点

手術の前は傷の治りをよくする為に、必ず禁煙をしましょう。また、骨粗鬆症の治療中の方は、骨の再生の妨げになるので必ず主治医に報告しましょう。 手術が終わったあとは体重の増量には気を付け、適度な運動で筋肉をつけ、健康的な食生活を心掛けましょう。特に大豆や牛乳、魚など骨の生成によいとされている食品をとりつつ、バランスよい食事を心掛けてください。”骨によいとされているサプリメント”などが市販されており、患者様から「そういったサプリを飲んだ方がいいんですか?」とよくご質問を頂戴しますが、残念ながら医学的な効果は証明されていません。それらを購入される前に病院やクリニックにご相談ください!効果の証明されている病院だからこそ処方できるお薬を処方させていただきます。

治療費について

《負担割合:年齢に応じて負担割合が変化》

1割負担2割負担3割負担
75歳以上70~75歳70歳未満

《診察基本料金》

基本料保険点数 (点)1割負担 (円)2割負担 (円)3割負担 (円)
初診料288288576864
再診料7373146219
処方箋料6868136204

《検査代金》

レントゲン保険点数 (点)1割負担 (円)2割負担 (円)3割負担 (円)
2方向(四肢)224224448672

《治療薬:後発医薬品を使用した場合で、”2週間分”のお薬代の合計》

薬剤名単位後発 (円)2week (円)1割負担 (円)2割負担 (円)3割負担 (円)
ロキソプロフェン1T833633.667.2100.8
レバミピド1T10.1424.242.4284.84127.26
ロキソニンテープ1枚17.889089178267
ロキソニンゲル 1%1g3150153045

《リハビリテーション:物理療法と運動器リハビリの比較》

リハビリ保険点数 (点)1割負担 (円)2割負担 (円)3割負担 (円)
消炎鎮痛治療(電気・温熱療法など)353570105
運動器リハビリ(2単位)3403406801020

《注射治療:薬代と医師による医療行為代金の合計》

薬剤名単位単価1割負担 (円)2割負担 (円)3割負担 (円)
アルツ(薬代)1A4004080120
手技料(医者の医療行為代金)244244488732
合計644284568852

《手術治療》

1割3割入院期間注意事項
人工膝関節全置換術8万円14万円2~3週間高額療養費制度適用

手術に関しては、入院費用・手術費用などすべて含めると数十万円から数百万円程度と非常に高額になりますが、日本には高額療養費制度という国民皆保険に基づく優れた保証制度があります。こちらを利用することで、どんなに医療費が高額となった場合でも「年齢や所得に応じてある一定の額以上は払う必要はない」という制度になっております。人工関節以外の関節鏡手術や高位脛骨骨切り術も同様に高額療養費制度の対象になりますのでご安心ください。実際にクリニックや病院で治療する際は、この表の治療を組み合わせて行いますので、例えば「初診診察+膝関節レントゲン+膝関節ヒアルロン酸注射+お薬」という場合、「3割負担の方は約3,000円」「1割負担の方は約 1,000円」程度の自己負担となり、これが実際に会計で支払う金額となります。また、「再診+運動器リハビリテーション(2単位)」を行う方は「3割負担の方で 1,240円」「1割負担の方で 410円」程度の支払いで、「再診+膝関節注射+物理療法(電気治療やウォーターベッド)」の場合は「3割負担で約1,200円」「1割負担で約400円」の支払いとなります。医療費については分かりにくい部分も多いですので、少しでも治療費の目安としていただければ嬉しいです。

まとめ

今回は変形性膝関節症について解説しました。自分自身のためにも、ご家族様のためにも、一度この病気の現状について確認していただき、いざというときのために知識を入れておいてみてください。

【参考文献】

https://www.knee.or.jp/about-oa

日本整形外科学会: https://www.joa.or.jp/public/sick/condition/knee_osteoarthritis.html

【 監修医師 】
●小山翔平 (Shohei Oyama): 整形外科専門医, おやま整形外科クリニック院長 《Web》https://oyama-seikei.gassankai.com/

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