絶対に知っておきたい糖質制限のデメリット
今回は、糖質制限のデメリットについてお伝えします。
落ちた体重の正体は水分
人間のカラダは本来、何をエネルギーとして使っているのかを理解するところから糖質制限についてお伝えします。安静時の代謝を分析すると、糖質が50%、脂質が50%の割合で使われています。どんな人間でも1日のエネルギーの半分を糖質で賄わないとバランスが悪くなります。また人間は動いたら安静時より3倍も多くのエネルギーを使います。脂肪は大きい分子なので、エネルギーとして利用するときに酸素が80個必要となります。
一方、糖質の代謝は6個の酸素で事足りるので効率がいいと言われています。だから人間は運動中により多くの糖質を使うのです。というわけで、アスリートは1日のエネルギーの7割以上を炭水化物で摂る必要があると言われています。そのため現在流行している糖質制限によって、1日の炭水化物の量を総エネルギー量の30%に減らすことは理論に適っていない部分もあります。
「3日間の糖質制限で2kg痩せた」と言う女子学生がいるとしましょう。
でも1kgを体脂肪に換算すると7,200キロカロリー。4日間まるまる断食するのとちょうど同じエネルギーです。もし2kgの脂肪が落ちたとしたら8日間断食したことになります。
そんなはずはありません。それに、脂肪2kgといえば容積にして500mlのペットボトル4本分です。それが本当にカラダから取り除かれたと考えるのは少し無理がありそうです。では何が体から出たのでしょう。それは炭水化物にくっついている水分です。
1992年に報告されたアメリカの臨床栄養学のこんなデータがあります。1日405キロカロリー分の食事しかしない超低エネルギーダイエットを4日間続けたらどうなるかという実験です。体脂肪の減少はほとんどなく、でも体重は多い場合で4〜5kg減る可能性があるという結果でした。体重が落ちると脂肪が落ちた!とみなさん勘違いしがちです。
体内に蓄積されている糖質、グリコーゲンには1個の分子に水が3〜4倍結合しています。だから筋肉や肝臓は水分をたっぷり含んで重いのです。炭水化物を抜くとグリコーゲンが消費されていくので、そこについている水分も減少していきます。これが糖質制限によるダイエットの真実なのです。
糖質摂取量は死亡率に関係あり?
20年以上の追跡調査の結果、1日に糖質を60%摂っている人のすべての病気の死亡率を1とすると、低糖質食の人は男性で約1.5倍、女性では1.35倍死亡率が高いという結果があります。
一方でダイエットの初期には水分が抜けることで体重が減ったとしても、その後ダイエットを続けていけば別のエネルギー代謝経路が働くのでは?と考える人もいると思います。肝臓で行われる糖新生によるケトン体(脂肪やアミノ酸の代謝物)の産生が有名ですね。
安静時の1日全体の代謝を1,600キロカロリーとして、その半分の800キロカロリーを全部ケトン体でカバーするには少し無理がありそうです。確かに、炭水化物を摂らずに4〜5日間、飢餓のどん底状態になるとケトン体を優先的に使うシステムに切り替わります。そういうシステムに変われないことはないですが、炭水化物があるのにわざわざ変える必要はないという意見もあります。
しかも糖質という効率的なエネルギーを使えないとしたら、できるだけエネルギーを節約する生活しかできません。それに、脳は1日400キロカロリーのエネルギーを必要とします。糖質をカットしたら、筋肉を分解して糖新生をするしかないのです。
理論的には1日100gの筋肉をなくしていけばなんとか生きていけるでしょう。でもこれはアフリカの飢餓難民の子どもたちと同じ状態です。己のカラダを脳に食べさせているのと同じことです。筋肉がどんどん減って、本末転倒となります。
それでは筋肉を減らさずに太らないためには、どの程度の糖質量が適当なんでしょうか?
2009年にアメリカ栄養士会で報告された4,000人のデータでは、総エネルギーの47%以下の低炭水化物摂取は過体重や肥満の発症に有意に関与していたとあります。逆に最も肥満のリスクが低いのは総エネルギーの47〜64%を糖質で補っている時です。
これは日本の食事摂取基準の炭水化物のエネルギー比率の目標量、50〜65%に相当します。日本の栄養学の第一人者が引用している8万人の追跡データでも、低糖質より高糖質の食事をしている人の方が死亡率が低いという報告があります。このデータからは、わざわざ糖質を減らす必要はないということが考えられます。
現在の日本人は炭水化物過多で、余った糖質は脂肪に変換されるから適正量をコントロールすべきという論法が大勢を占めていますが、そうでもないようです。というのも、余った糖質は脂肪にならないという意見もあるからです。
余った糖質が脂肪になるのはラットの話です。ラットに高糖質食を食べさせたら7割〜8割が脂肪になります。これはラットには脳がほとんどなくて糖質が必要ないためです。
また、それを初めて証明したのが1999年、アメリカ生理学会で発表された論文です。棺桶みたいな装置に人を寝かせて、24時間炭酸ガスと窒素と酸素の量を測定して代謝量をコンピューターで分析したデータです。
それによると、タンパク質や炭水化物の摂取量を増やしても代謝が上がったり熱に変換されてほとんど消費されますが、脂肪を増やすと余った分は24時間以内にすべて体脂肪になりました。
脂肪過多で体脂肪が増えるというのは、ラットも人間も一緒です。でも、人間では糖質は体脂肪にならないと言われています。たとえ過剰な炭水化物を摂っても、肝臓で1日10g以上の脂肪を合成することはできないという結果が出ています。つまり、日本人が太ったのは脂肪過多の食生活になったからです。
糖質とタンパク質は脂肪にはならず、脂質は即、脂肪に
これはアメリカ生理学会の論文集で発表された衝撃的なレポートです。
被験者に4日間同じものを食べさせて体重が変わらない条件を整えたうえで、すべての栄養素を1.6倍に増やして与えたところ脂肪だけが体脂肪として蓄積されることがわかりました。
糖質制限と朝食の落とし穴
低糖質ダイエットのためと朝食を抜くのもよくありません。
朝食で糖質をカットしたり欠食した後ランチを食べると、普段より95%血糖値が上昇する可能性があるんです。これは血糖値スパイクというもので、これが繰り返されると脳卒中や心臓血管系の病気のリスクが高まります。
これは血液中の遊離脂肪酸がものすごく増えている状態だからです。中性脂肪は、脂肪酸3つとグリセロールという物質がくっついたもので、この中性脂肪が分解されると遊離脂肪酸が血液中に放出されます。遊離脂肪酸は主に心臓や心血管系の筋肉のエネルギーとして使用されます。
朝食を抜くと血糖値が下がったままになります。血液中の少ない糖質を筋肉が使ってしまったら脳への栄養となる糖分がなくなります。ですので脳はアドレナリンなどのホルモンを出して、中性脂肪を分解し、遊離脂肪酸を血液中にどんどん放り込みます。
安静時の状態であれば、筋肉は脂肪を優先的に使います。
ところが、グリコーゲンが少ないと、グリコーゲンに結びついている水分も少ない状態です。その場合、遊離脂肪酸によって血液がどろどろになり、さらにアドレナリンの作用で血管が収縮するので、脳卒中や心筋梗塞で突然倒れてしまうこともあるわけです。
つまり食後に血糖値の上昇率が上がるということは、その前の段階で遊離脂肪酸が血液の中で渋滞しているということになります。
監修医師のアドバイス
これまでもてはやされてきた「低炭水化物ダイエット」痩せやすい!という一面は間違いないと思われますが、残念ながら多くのデメリットもあるということが分かったと思います。とくに、最後にご紹介したような「血糖値スパイクによる遊離脂肪酸の急増」が原因で、脳卒中や心筋梗塞など命に関わるような重大なご病気になってしまう可能性もあるのです。人間が生来穀物を食べてきたのは、本能的に穀物が身体に大事であることを感じとっていたからなのでしょう。過度な糖質制限は控え、適切なバランスの食事でダイエットに取組んでいきましょう。
【 参考文献 】
Fung TT et al. Ann Intem Med. 2010: 153(5)289-298
Jequier, NIPS, 1993
【 監修医師 】
●小山翔平 (Shohei Oyama): 整形外科専門医, おやま整形外科クリニック院長 《Web》https://oyama-seikei.gassankai.com/
●Dr. KyoJi: 医師11年目の外科医, 新宿の医局→フリーランス 《Twitter》https://twitter.com/dkyoji
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