【放置厳禁】膀胱がんの2つの症状
膀胱は、尿を一時的にためておく袋の役割をもっています。尿は、腎臓でつくられて腎盂(じんう)から尿管を通って膀胱に運ばれます。膀胱の内側は移行上皮という細胞でできていて、これは溜まったおしっこの量に応じて伸びたり縮んだりと形が変化できる細胞です。膀胱がんのほとんどは、この移行上皮細胞ががん化したものです。また、腎盂、尿管、膀胱など尿の通り道にがんができるものを尿路上皮癌といいますが、尿路上皮癌の中では膀胱がんの割合がもっとも多く、約半数を占めます。膀胱がんにかかる確率は60歳以上になると増加し始め、男性に多く、発生の危険要因として喫煙が明らかになっています。
今回は、膀胱がんになるとどうなるのか、膀胱がんの種類、予防法についてお伝えします。
膀胱がんの種類
がんの深さや、他の臓器からの転移があるかどうかによって、次の三つに分類されます。
筋層非浸潤性がん
膀胱の筋層(筋肉の層)には浸潤していないがんです。表在性がんと上皮内がんが、これに含まれます。膀胱鏡などの検査により、カリフラワー状に表面がぶつぶつと隆起しているのが確認できます。膀胱の内腔に向かって飛び出した形状をしていることがあり、「乳頭状がん」と呼ばれることもあります。表在性がんの多くは、浸潤しやすいがんではないですが、稀に進行して浸潤や転移を起こすハイリスク筋層非浸潤性がんと呼ばれるタイプのものがあります。また、粘膜は「上皮」とも呼ばれますが、膀胱粘膜の中にとどまっているがんを「上皮内がん」と呼ぶこともあります。
筋層浸潤性がん
膀胱の粘膜よりも外側にある筋層まで浸潤したがんのことで、他の臓器へも浸潤しやすいがんです。膀胱壁(ぼうこうへき)を越え、他の組織へ浸潤したり、リンパ節や肺、骨にまで転移する可能性があります。
転移性がん
膀胱から発生したがんが、他の臓器に転移した状態のことです。膀胱がんが転移しやすい臓器としては、リンパ節、肺、骨、肝臓などが挙げられます。
膀胱がんの症状
膀胱がんの主な症状は、赤色や茶色の尿が出る「血尿」であり、大きく次の二つに分かれます。
- 眼で見てはっきりと血尿だと分かる「肉眼的血尿」
- 眼で見て色の識別は難しいものの、顕微鏡などを使用することで分かる「顕微的血尿」
肉眼的血尿は、膀胱がんの中でも最も高い頻度で見られる症状であり、この症状により受診する患者のうち、13~28%は、膀胱がんであると言われています。この他、膀胱刺激症状と呼ばれる、頻尿(朝起きてから夜眠るまでの排尿回数が1日8回以上おしっこが出る)、排尿時の痛み、残尿感(排尿後も尿が残っていると感じる)などの症状があります。これらの膀胱刺激症状は、膀胱がんの全症例の約3分の1に見られ、膀胱内の筋層に浸潤している筋層浸潤がんや、上皮内がんでは、特に多く見られます。膀胱刺激症状は膀胱炎などでもよく見られる症状ですが、炎症を抑えるために抗生剤等を服用しても症状が改善されないという特徴があります。
また、膀胱がんの進行により背中の痛みが見られることもあります。これは、がんが広がることでおしっこの出口である尿管口が閉塞されて尿の流れが妨げられ、尿管や腎盂が拡張するため、水腎症という別の病気を発症することが原因です。この時に、腎臓が位置する「背中」に痛みを感じることで見られる症状です。
膀胱がんは、がんの進行が比較的遅いとされていますが、症状が出現したころにはすでに進行した状態、あるいは転移した状態になっていることがあります。
早期の表在性がんは、多くの場合、治癒が期待できます。浸潤性のがんの治療成績も向上してきています。症状が続くときには早めに受診することが膀胱がんの早期発見につながります。
膀胱がんの原因と予防
膀胱がんに対し、現在確認されている最大の原因は喫煙です。喫煙者は非喫煙者と比べ、膀胱がんの発症を2〜4倍、高めるリスクがあります。また、男性の50%以上、女性の30%以上は、喫煙により膀胱がんを発症すると考えられています。喫煙のほかにも職業性発がん物質にさらされることが原因となることもあります。例えば、化学染料の中に存在する有機溶剤等に対して慢性的に接触することで発がんするケースがあります。特に染料工場や皮革加工などで使用される芳香族アミンを取り扱う方は、一般の人よりも2~40倍、発がんのリスクが高いとされています。その他膀胱癌の原因として知られているものとしては、これらのものがあります。
以上のことから、膀胱がんの予防には、発がん因子を遠ざけることがポイントとなります。染料工場や皮革加工などの仕事に従事する方は、マスクやゴーグルなどで防護をする、禁煙を心がけることが必要です。
膀胱がんのステージ
膀胱癌のステージは、0期~Ⅳ期に分けられます。膀胱がんの存在が確認されたら、膀胱の壁内にどれくらい深く達しているかの評価、リンパ節転移などがあるかの評価(N staging、遠隔転移があるかの評価を行います。この3つの評価項目による分類をTNM分類と言い、2002年から使用されています。これにより、ステージの判断をすることができ、治療方針が決定します。
膀胱がんの生存率・予後
膀胱がんの予後は、がんの広がりや程度、リンパ節への転移があるかどうかが大きく影響してきますが、どのような治療を行うのかによっても変わってきます。例えば、膀胱全摘出など外科的な治療を受けた後の5年生存率は、治療を開始した時のステージによってこのように変わります。一方、手術を受けずにそれ以外の治療である、放射線療法や化学療法、内分泌療法などの治療法や、これらを組み合わせた治療法などを受けた場合、5年生存率は75%前後といわれています。膀胱がんにより膀胱を摘出したあとは、尿路変更術を行い新しく尿が通る経路をつくります。排尿方法がそれまでとは異なりますし、新しい尿路に関係するトラブルなどが起こることがあります。
尿路の変更方法によりトラブルへの対応は異なるため、自分にあったケアの方法、について入院中に説明を受け、自分でケアができるようにします。例えば、回腸導管造設術や尿管皮膚瘻造設術などの尿路変更手術によりストーマという人口膀胱が増設されると、そのストーマを補助する道具を付けることになります。この場合はストーマケアが必要ですし、ストーマ周囲の皮膚トラブル予防対策も自分やご家族が行うことになります。
また、自排尿型新膀胱造設術による尿路変更を行った場合、新膀胱への尿の溜まり具合が安定するまでは、尿漏れが起こりやすくなります。尿の溜まり具合が安定した後も、新膀胱に尿が溜まりすぎると尿が出にくくなりますので、4~5時間ごとの排尿が必要ですし、場合によってはカテーテルを使って導尿する必要があります。さらに、転移の兆候がないかなどを定期的に検査し、新しい膀胱や尿路がきちんと機能しているか、腎障害などが出てきていないかなどのチェックを受ける必要があります。
監修医師のアドバイス
膀胱癌は比較的治療成績のよい癌です。しかし、治療後に再発する可能性が高い癌としても知られています。手術で切除したあと 1~2年以内に60〜70%の方が再発するといわれており、さらに10~20% の患者さんは再発を繰り返すうちにより悪性度の高い癌に進展していく可能性があるといわれています。そのため、手術後は3ヶ月に1度、膀胱鏡で再発していないかどうかをチェックする必要があるのです。このような大変な状況になる前に、何より予防が重要となります。喫煙をされている方は、膀胱癌を防ぐ意味でも禁煙を心掛けましょう。
【 参考文献 】
・日本泌尿器科学会
・日本癌治療学会 がん診療ガイドライン 膀胱がん
・国立がん研究センターがん情報サービス
【 監修医師 】
●小山翔平 (Shohei Oyama): 整形外科専門医, おやま整形外科クリニック院長 《Web》https://oyama-seikei.gassankai.com/
●Dr. KyoJi: 医師11年目の外科医, 新宿の医局→フリーランス《Twitter》https://twitter.com/dkyoji
メディバリー大学病院では動画にしてほしい内容も募集しております。ご希望のある場合は、以下のお問い合わせフォームからお気軽にご連絡くだされば幸いです。