大腸がんは喫煙・飲酒・生活習慣だけが原因じゃない
大腸の働きを知っていますか?口から入った食べ物は胃に入り、溶かされて吸収されやすくなります。次に十二指腸に入り、そこですい液や胆汁が混ざり、小腸に入ります。小腸の突起の中には細い血管があり、血液が流れています。消化された養分や水分は、この突起の中の血管から血液に取り入れられて吸収されるのです。大腸に入った食べ物は水分を吸収されて便になり、肛門から出されます。
大腸がんとは
大腸がんは、大腸の粘膜に発生する悪性の腫瘍で、できる場所によって大まかに「結腸がん」と「直腸がん」に分けられています。
一言で大腸といってもさまざまな部位があり、入り口から出口に向かって上行結腸、横行結腸、下行結腸、S状結腸、直腸S字部、上部直腸、下部直腸、肛門管で構成されています。強いお腹の痛みの原因となる盲腸も、この入り口近くにあります。盲腸は別名虫垂といわれ、その虫垂にばい菌が感染し、強い炎症が起きて腹痛を生じることを虫垂炎といいます。そして結腸は上行結腸からS状結腸まで、直腸は直腸S字部から肛門管までを指し、日本人の場合、大腸がんは特にS状結腸や直腸に発生することが多いといわれています。
また男女ともに発症率が高く、男性では前立腺がん、胃がんに次いで3番目、女性では乳がんに次いで2番目に多いがんです。大腸がんの患者数は40歳代から増加し、その後、年齢が上がるにつれて罹患率は高くなっていきます。
大腸がんの症状
初期の段階では自覚症状がまったくないというケースが多いです。ところが進行するにつれて次の症状が現れてきます。
- 血便、下血
がんの部分から出血し血便や下血を起こすことがあります。がんができる腸管の部位によって血便になったり下血になったりしますが、一般的に「便に血が混じる」と表現されます。 - 下痢や便秘
がんによって腸管が狭まってくると便が通らなくなり便秘になります。また大腸の根元あたりの上行結腸にがんができると、水分の多い便になりがちで下痢をすることがあります。 - 体重減少
がん細胞が栄養を吸収してしまったり、腸管が体内への栄養吸収をおこないにくくなっていくために体重が減少していきます。 - 継続的な血便や下血による貧血
便に血が混じる状態が続くと、体内の血液がどんどん減っていき、貧血に陥ることがあります。 - 腹痛や嘔吐
がんによって腸管が完全に詰まってしまうと便が通らなくなり、腹痛や嘔吐を起こします。このような状態となることを腸閉塞といったりイレウスと言ったりします。
人によっては痛み、吐き気、便やガスが出にくくなったり出なくなる、意識を失うといった症状も見られます。がんが大きくなると、おなかにしこりを感じることもあります。
これらの症状は、大腸の出口に腫瘍があると早期から出始めることが多く、比較的気づきやすいです。一方、大腸の入り口付近や中心付近にある場合は腸が太いため症状が出にくく、腫瘍が大きくなってから発見されることも少なくありません。
腸閉塞によって腸に穴が空いてしまうと、緊急手術が必要になり、命に関わる場合もありあます。
大腸がんの原因
大腸がんの発生には生活習慣、特に食生活との関わりが深いと考えられています。牛や豚、羊といった赤身の肉、ハムやソーセージなどの加工肉をよく食べる習慣や、低繊維・高脂肪の食事、過度な飲酒、喫煙は発症のリスクを高めるといわれています。
さらに遺伝との関連性も指摘されており、家族に大腸がん、もしくは胃がん、子宮体がん、卵巣がんなどを患った人がいる場合は、がんになりやすい体質であることが疑われるので注意が必要です。また、がん以外の疾患についても、「家族性腺腫性ポリポーシス」という、大腸に無数のポリープが発生する遺伝性の病気は、治療せず放置するとほぼ100%がんになるといわれています。なお大腸がんが発生する過程は、腺腫と呼ばれるポリープが悪性化するパターンと、最初から悪性腫瘍として発生するパターンの2通りがあると考えられています
検査方法
便潜血検査で便に血液が混じっていないかどうかを調べ、陽性であれば大腸内視鏡検査や腸管の造影検査を行います。がんがあった場合にはCT検査、MRI検査などによって腫瘍や大腸の状態を詳しく観察します。内視鏡検査では腫瘍の形や大きさ、色、広がり具合などを鮮明な映像で確認でき、腸管の造影検査はがんの正確な位置やがんの深さを調べるのに役立ちます。その他、
- 肛門から指を入れて直接しこりに触れる直腸指診
- 採血での腫瘍マーカー(がんによって増える血液中の物質)の検査
- 腫瘍の一部を顕微鏡で観察する病理検査
- 放射性の薬剤を使ってがんの全身への転移を確かめるPET検査
などを症例に応じて行い、転移の有無やがんの進行度合いも含めて診断を確定していきます。
大腸がんにかからないためには
栄養バランスの取れた食生活、適正体重の維持、適度な運動、禁煙、節度のある飲酒を心がけることで、大腸がんの発症リスクを下げることができるといわれています。また、大腸がんは早期に発見できれば高い確率での治癒が期待でき、治療後の生存率も高くなります。そのため、定期的に大腸がん検診(大腸内視鏡検査・便潜血検査)を受け、小さな異常をできるだけ早く見つけることが大切です。特に40歳を過ぎると発症率が高まるため、年に1回の検診が望ましいと言われています。
監修医師のアドバイス
大腸がんは日本人に多いがんの1つです。検診などで早期発見できれば内視鏡の手術だけで取り除くこともできます。逆に、早期発見ができずに進行してしまうと、人工肛門が必要になることもあれば、命に関わることもあります。まずは食生活などの生活習慣を見直すところから始めていただき、さらに年に1回の検診を心掛けるようにしましょう。そうして、大腸にやさしい体をつくり、万が一の際にはすぐに治療してもらえるようにしていきましょう。
【 参考文献 】
・厚生労働省ウェブサイト.がん登録 全国がん登録 罹患数・率 報告 平成28年報告;2019年
・大腸癌研究会編.大腸癌治療ガイドライン2019年版.金原出版
・大腸癌研究会編.患者さんのための大腸癌治療ガイドライン2014年版.金原出版
・大腸癌研究会編.大腸癌取扱い規約 第8版.2013年,金原出版
【 監修医師 】
●小山翔平 (Shohei Oyama): 整形外科専門医, おやま整形外科クリニック院長 《Web》https://oyama-seikei.gassankai.com/
●Dr. KyoJi: 医師11年目の外科医, 新宿の医局→フリーランス《Twitter》https://twitter.com/dkyoji
メディバリー大学病院では動画にしてほしい内容も募集しております。ご希望のある場合は、以下のお問い合わせフォームからお気軽にご連絡くだされば幸いです。