「テニス肘はどうして痛む?」
「テニス肘」は別名として上腕骨外側上顆炎と言われる病気です。テニス中に片手でバックハンドを打つ方に多く見られ、特に中年以降のテニスプレーヤーに起きやすいためテニス肘と呼ばれています。
テニス肘の症状と原因
どんな症状なの?
テニス・バドミントン・ゴルフ・卓球などのスポーツ愛好家の方は「ラケットなどを振る」という動作を繰り返すことで手首や肘を酷使します。大工さん・コックさん・保育士さんなども仕事柄よく手首や肘をつかっていらっしゃいます。このように日常的に手首や肘に負担のかかる動作を繰り返し行うことで、肘の外側にある腱の付け根に炎症が起きてしまいます。ある論文によると、”週3回以上練習する方は発症頻度が高くなる”という報告があり、テニス肘は「スポーツ障害」の1つと考えられています。
※スポーツ障害とは、スポーツで同じ練習・稽古を繰り返し行い、骨や筋肉を使いすぎることが原因で起こる怪我のことです。
多くの場合、テニス肘は「使い過ぎ(オーバーユース)」が原因となることがほとんどで、性別に関係なく発症しますが、女性は筋力が弱いことや家事などで腕を使う動作が多いことから、特に主婦の方が多く発症します。
また、筋力が保たれている若い時期は発症しづらいですが、年齢とともに少しずつ腕の筋力が低下したり、肘の腱の強度も落ちてくるため、中高年の方々にも発症しやすいとされています。このような中高年以降の方々では、仕事・家事・スポーツなど明らかな痛みの原因がない場合も多いです。
テニス肘の原因は?
現在でも、原因については十分に解明できていないところがありますが、主に短橈側手根伸筋という筋肉の付け根が肘の外側でダメージを受けて痛みが発生するとされています。スポーツや仕事で過度に手首をそらす動作によりこの短橈側手根伸筋の付け根に炎症を引き起こします。また先ほども申し上げた通り、スポーツや仕事以外でも、年齢とともに肘の腱が弱くなり痛みを生じることもあります。
ちなみに、テニス肘で痛みが出やすい場所は上腕骨外側上顆といわれ、“手関節を反らす筋肉”と“指を伸ばす筋肉”の付け根が3本ほど重なり合っています。具体的には「総指伸筋、長橈側手根伸筋、短橈側手根伸筋」の3つで、全て手首や指を動かすための筋肉です。その中の「短橈側手根伸筋」に炎症が起きることでテニス肘を発症すると考えられていますが、まだ解明しきれてはおりません。
テニス肘の診断
診断方法には以下の3つがあります。
●Thomsen test
肘を伸ばして手首を曲げます。そのままキープしていただき、医師が逆側に負荷をかけます。
●Chair test
椅子などの重たいものを持ち上げていただきます。
●中指伸展テスト
指をまっすぐにキープしていただき、中指を曲げるように負荷をかけます。
テニス肘だと思い込んでいたら肘の骨が変形していたり、軟骨がすり減っていたりすることがあります。そのような別の病気や変形ではないことを確認するためにレントゲン検査も行います。
テニス肘の治療と予防
テニス肘の治療
1. ストレッチ
手首や指を中心に、肩や肘も含めたストレッチをこまめに行います。また仕事やスポーツ後に、アイシングなどのセルフケアを行うことも効果的です。具体的な方法は、この後の「テニス肘の予防」で説明します。
2. 安静
スポーツや手を使う作業をひかえましょう。仕事や家事はなかなか休みづらいですが、この安静を守ることができれば大きな治療を必要とせず、ご自分の力で炎症がとれて痛みがなくなる可能性あります。
3. 内服薬・外用薬
ロキソニンをはじめとした消炎鎮痛剤を使用します。消炎鎮痛剤は飲み薬や湿布・塗り薬などがありますので、症状に応じてそれらを組み合わせて使用します。ただし、飲み薬を長期間使用すると胃や十二指腸が荒れてしまい、胃潰瘍や十二指腸潰瘍になる可能性があります。また腎臓の機能が低下するケースもありますので注意が必要です。
4. 注射
痛いところに局所麻酔薬(キシロカイン)とステロイド(ケナコルト)の注射をします。特に、急性期(発症から1,2カ月ほど)の、痛みで物を持てないとき、ドアノブを回せないときなどに注射は有効です。痛みのある部分に注射すると、局所麻酔薬とステロイドの作用で次の日には痛みがとれ、多くの場合1,2ヵ月程度痛みがなくお過ごしすることができます。残念ながらその状態でスポーツや仕事に復帰すると再発してしまうことがありますので、痛みがなくなった間もストレッチやリハビリなどで根本的な治療を目指すことが望ましいです。
5. サポーター
テニス肘用のバンド(テニスエルボーバンド)を装着することで、腱の付け根の負荷を減らすことができます。
6. リハビリ
温熱療法やレーザー治療、ストレッチなどのリハビリを行います。また最近では体外衝撃波といわれる機械を用いた治療も広まってきております。特に急性期が過ぎて慢性化してきた時期(痛みが出てから3カ月程度)に効果的だといわれています。ある文献によると「リハビリには注射のような即効性はないものの、長期的に見るとリハビリの方が注射より治療成績がよく、最も治癒効果が高い」という統計学的なデータが示されております。
7. 手術
極々稀ではありますが、痛みが強くこれまでの治療で改善しない場合に手術を行うことがあります。手術には、オープン法と鏡視下法の2種類があります。
1.オープン法:肘を切開し、短橈側手根伸筋の付け根を直接切除する方法
2.鏡視下法:肘に関節鏡を差し込み、関節の中から短橈側手根伸筋の付け根を切除する方法
テニス肘の予防
テニス肘の予防には、手を使い過ぎないということが一番ですが、以下のようなケアをしっかり行うと、発症予防や症状の改善に効果的です。日頃からこまめに行うように心がけましょう。
1. ストレッチ
①:ストレッチする側の肘を伸ばし、手をまっすぐ前へだします
②:反対の手で親指から小指にかけて順番にもって手前に引っ張る
③:①②を両手30秒ずつ行う。
これを一日三回程度行ってみてください。
2.筋トレ
“痛みが少ないとき” や “痛みがなく再発を予防したいとき ”には筋トレが有効です。筋力を鍛えることで仕事やスポーツの負荷に負けない身体をつくることができます。1kg 程度のダンベルやゴムバンドを用意し、手首の関節をかえしたり戻したりする筋トレをを行います。最近は100円均一にもダンベルやゴムバンドが売っておりますが、なければペットボトルに水を入れて重り代わりにしても大丈夫です。この筋トレですが、症状を悪化させる可能性があるため、痛みがつよいときは控えるようにしてください。
3.冷やす(アイシング) or 温める(ホットパック)
急性期(発症から 1,2カ月ごろ)は痛いところが熱を持ちやすいため、氷で患部を冷やすと痛みを抑えやすいです。仕事や運動後のセルフケアとしてアイシングすることも予防に有効です。
慢性期(発症から 3カ月以降)は、逆に温めることで痛みを緩和できることがあります。クリニックなどではホットパックという器具を用いて専門的に温めることができますが、ご自宅ではお風呂で温めたり、タオルをお湯で濡らし、電子レンジで温めて患部に当てることも効果的です。
4.サポーター・テーピング
サポーターやテーピングは肘や手首にかかる衝撃を軽減することができます。特にテニスやバドミントンをはじめとした「スポーツが原因で発症したテニス肘」に効果的といわれています。医療機関の受診が困難な方は、これらのサポーターやテーピングが市販されておりますのでスポーツ用品店や薬局などで相談してみてください。
【 監修医師 】
●小山翔平 (Shohei Oyama): 整形外科専門医, おやま整形外科クリニック院長 《Web》https://oyama-seikei.gassankai.com/
●Dr. KyoJi: 医師11年目の外科医, 新宿の医局→フリーランス 《Twitter》https://twitter.com/dkyoji
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